加藤シゲアキさんという人に出会って、もう4年半になる。
そしてこの数年間は、それまでの思春期のめまぐるしさに負けず劣らず、自分の変化を実感する日々だった。
ラジオを聞く習慣ができた。
新しいジャンルの音楽を聴くようになった。
そうして好きになったアーティストのライブに足を運んだ。
時間を見つけてまた本を読むようになった。
文章を書くことの楽しさを思い出した。
自分の好きなものを誇れるようになった。
好きなことを誰かと共有する楽しさを知った。
会ったこともない彼という人に、私はどの友人よりも大きな影響を受けてきた。彼に出会っていなかったら今の自分にはなっていないと大真面目に断言できる。あえてこの言葉を使うならば、私は日々加藤さんに"啓蒙されている"とも言えるのだと思う。
初めてそう感じたのは、2018年のTRIPPER春号を読んだときだった。
まだ彼の文章を全部追うようなことはできておらず、たまたま書店で見かけて「そういえば」と立ち読みしたこの号のエッセイに私は大きな衝撃を受け、気づいたときにはレジに持って行っていた。アイドルという職業の人がこれだけまっすぐにLGBTを語ることが、何より自分の名前がつく文章で大真面目に「世界を変えたい」と言える勇気が衝撃だったのを覚えている。翌日、すでに終えていた大学の科目登録をやり直して、ジェンダー論の講義を聴講した。
同じ頃、メモに残していたのは2018年4月6日のビビットだった。
大相撲で救助のため土俵に立ち入った女性に「降りろ」という声がかかった話に彼は
「そもそもジェンダーの部分を男女の二元論で分けるのが正直時代として無理がある。二つに分けるのは国際基準で無理。長く続く伝統は時代に合わせてフレキシブルに変化する。しきたりを早急に見直すべきだ」
とコメントした。エッセイだけではなく、NEWSな二人でもラジオでもソロ曲でもずっとそういうことを考えて発信してきた人だから、説得力があった。
そして、山口くんの一件があった。
ハラスメントという問題は、彼がずっと批判的な態度を示して来た事柄のひとつだ。もしかしなくとも、彼の口から発せられるコメントは相当厳しいものになるだろうと思いながら、ビビットを見た。
「何やってるんですか先輩、という思いが今もずっとあるけれど、山口くんは僕が本を出すたびに読んで感想をくださるような大好きな先輩だった。今、お酒で悩んでる人はいっぱいいて、そういう人の希望の光にもなると思う。お酒と戦って僕は強い大好きだった山口くんの姿をもう一度見たい」
正直驚いた、と同時にあっぱれだと思った。擁護の余地がない、という報道が一色の中で、「悲しいです」というコメントで留めておいた方がきっとよっぽど身を守れるのに、それでも彼はその先を続けた。被害者を案ずる意見ばかりが飛び交う中で、山口くん側の状況に言及する人間が他にいなかったから、彼はそういう位置に立ったのだと感じた。のちにこのコメントに対して批判的な声が上がったのも知っている。だけど私は、少数派になる人のことを決して切り捨てず、どこまでも人間の可能性を信じる彼らしいコメントだったと思う。
今年に入ってからは加藤さんにフロムの『愛するということ』という本を紹介してもらった。いろいろあってまだ読めていないのだけれど、きっと最近煩悶していた私の世界をまた変えてくれるだろう、そんな予感がある。読んだらまたなにかしら感想をしたためようと思っている。
そして今年も、この日がやってきた。
「あなたにとって好きなアイドルはどんな存在か」と言う問いに、今の私は「こころのノート」と答える。
小学生のころ、道徳の教科書と一緒にもらった副読本。
そんな教材みたいに、あなたはたくさんの言葉で、私の世界を広げてくれた。
あなたは私に花の名前を教えてくれた。
あなたに出会わなければ知らずに死んでいたかもしれない花の名前。
道端に咲いた花を見てはふと、あなたのことを思い出す幸せ。
あなたは私に色の名前を教えてくれた。
赤と白の間にはピンクがあることを、黒と白の間にグレーがあることを。
君がいない世界では空にかかる虹さえモノクロに見える、とは言わないけれど、少なくとも虹は七色のままだった。七色の虹に橙を数える人もいれば、藍色を入れる人もいて、そもそも何色だと思ったっていいことを、私はあなたに教えてもらったのです。
どんな人もどんな意見も、どこかでなだらかに地続きしているから
世界はグラデーションで、二元論で片付けられないことの方がきっとずっと多いのだと。
この記事を去年から同じタイトルで寝かせていたら、奇しくも今年発表されたソロ曲の題名は『世界』だった。
加藤シゲアキの半径数メートルの『世界』。
ライブでも演出を極限まで削ぎ落としてギターを弾き語る彼は随分と無彩色な語りを意識しているように見えたけれど、きっと加藤さんの白は加法混色の白で、黒は減法混色の黒なんじゃないかと思う。シンプルだからこそ、その奥に無限の色が広がっている。そう感じるのは、彼ひとりぶんの世界から溢れるさまざまの色を、たくさんたくさん見てきたからだ。
加藤シゲアキさん、32歳のお誕生日おめでとうございます。
加藤成亮さんの描く加藤シゲアキという物語を、私は愛してやみません。
NEWSと加藤さんのこれからが、どうかたくさんの愛と彩りに満ち溢れていますように。